「5年もメジャーリーグのキャリアがあるのに常に謙虚。コーチのアドバイスに耳を傾け、一生懸命練習するし、チームの誰とでも親しくなった」。
虎の新4番、ウィリン・ロサリオ(29)について、ロサリオが昨年まで在籍した韓国ハンファで2年間通訳を務めた金智煥氏(30)はそう語る。
また元同僚でロサリオの母親と年齢が近いことから「パパ」と呼ばれていた元捕手の趙寅成(42=韓国斗山コーチ)も「ロサリオは礼儀正しいし韓国の文化にもすぐ慣れた」と高い適応力に感心していた。
ロサリオは韓国での日々の夕食を金通訳と共にした。「どんな料理でも口にするし、2年目からは辛いものも好むようになった。いつも僕に何が食べたいかを尋ねてくれて相談して食事を決めていました」。
ロサリオが最初にハマった韓国料理が「カルビタン」。牛の骨付きばら肉をじっくりと煮込んだ透明なスープの中に、カルビ、ネギ、大根、春雨などが入ったあっさり味で、韓国ではその中にご飯を入れて食べるのが一般的だ。ロサリオと金通訳は遠征の度においしいカルビタンの店を事前に探し、2人で食べ歩いた。
金通訳にはロサリオとの食事の中で、カルビタンを超える忘れられない味がある。
「4打席連続ホームランを打つ前に食べた、蒸しズワイガニ(テゲチム)です」。
昨年6月16日のkt戦(水原)。ロサリオは2打席目に左中間へ10号2ランを放つと、ソロ、3ラン、ソロとこの日4連発。7打点を挙げる大爆発を見せた。
これに気を良くしたロサリオはゲンを担ぎ、翌日もカニを食べた。すると17日には14号ソロ。さらに18日も15、16、17号の3本のアーチを架け、ロサリオは実に3日間で8発14打点という離れ業をやってみせた。以来、ロサリオにとってカニ料理は勝負めしになった。
2018年、活動の場を日本に移したロサリオ。3月29日、東京ドームでの開幕前日の晩餐はカニ、ではなくステーキだった。
「(ロサリオが)"カニ食べたい、カニ食べたい"って突然言い出してお店を探したんですが、急には見つからなくて」。そう言って阪神・橘佳祐通訳は苦笑した。
これからロサリオは横浜、大阪と新たな戦いの場に向かう。その道中、「幸運のズワイガニ」との出会いは待っているか。
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室井昌也
1972年、東京生まれ。韓国プロ野球の伝え手として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。現在「室井昌也の韓国野球を観に行こう!」(ラジオ日本)に出演中。ストライク・ゾーン取締役社長。
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