◇韓国プロ野球観戦ツアー2014
体験記
ツアー初日。集合場所の仁川国際空港でほかの参加者の皆さんと挨拶を交わす。アメリカ大リーグ観戦ツアーに参加した経験もある方がいた一方で、野球のルールがよくわからないという女性もいた。野球は好きだけど詳しくはないという私は中間くらいか。SKの本拠地、ムナク球場に到着。室井さんと球団職員の先導で関係者以外立ち入り禁止の廊下を通ってベンチの横を抜け、グラウンドに立つ。一般客にはない特権だ。SK清家コーチからお話をおうかがいし、日本のプロ野球出身者が韓国プロ野球のために尽力しておられる最前線を垣間見る。
試合の観戦スタイルは参加者それぞれだった。私はビール派。ほかの何人かの方とお金を出し合ってつまみも。スコアを付ける方はストイックにスコアブックに向かい、なかにはどこに行ったのか姿が見えない人もいた。私もムナク球場の観客席に特設されたバーベキュー・コーナーを見学に行き、肉を焼くのに夢中でぜんぜんプレーを見ていない客を発見して面白かった。また、ツアー中、三夜ともそうだったのだが、ホテル帰着後、室井さんを中心に飲みに行ったのが楽しかった。野球好き同士である。けっこう遅くまで飲んだと思う。睡眠時間が短いのに、妙に気合いが入っているツアーで、大学時代のサークルの合宿を思い出した。
2日目。トゥサンは負けてしまったものの、試合後、石山監督が私たちの待つ焼肉店に来て下さる。実のところ、私は監督が韓国社会の中でただひたすら苦労されているのではないかと勝手に想像していた。ところが監督は飄々として、同時に、統帥者として決然と毎日の試合に臨んでおられるのだった。「だって、監督が揺れたら終わりじゃない」と、さらりとおっしゃる言葉の重みが違う。尊敬すべき監督は、ファンサービスの王者でもあった。去り際、シーユーアゲインの代わりに、「シーユー、ハゲ!」とおっしゃって私たちを爆笑させたのだった。なぜなのかは写真を参照されたい。
3日目。サムソンの門倉コーチが観客席で私たちにSK戦の生解説をして下さる。SKのヒットとホームランが続いたとき、門倉さんが「SKはスライダーを狙いに来ていますね」とつぶやいた。はっとしてグラウンドに目を戻すと、サムソンのキャッチャーは小首をかしげたまま立ち尽くしている。バッテリーは、まだ気づいていない? 「ええ、残念ながらそのようです」。これは、なんという贅沢か。選手たちが気づかない、しかし、コーチだから察知しうることを私たちはライブで知ることができるのだ。
試合後、食事に付き合って下さった門倉さんが、現役時代のエピソードを披露してくれる。中日の新人で初めて一軍に上がり、諸先輩が見ている前で震える思いでフォークを投げて認められた時のこと。試合中、投球が好調なあまり、チームメートを前に「きょうは完全試合だ」と意気込んだ瞬間に打たれて負け投手になった失敗談まで。そして、韓国プロ野球の特徴や課題も。
石山監督や門倉コーチにお目にかかって気づいたことがある。それは、徹底した節制ぶりだ。監督は焼酎を注文されたが、口を付けた程度だった。門倉コーチも飲まず、食事は控え目だった。現役選手でなくても、やはりアスリートなのである。そして、あくまでも私たち野球ファンを大切にし、期待に応えようという、まさにプロとしての使命感にあふれた姿だった。
楽しかったツアーを振り返って思うのは、プロ野球はすごいということだ。ほかに考えつく言葉がない。子どもの頃に抱いた、プロ野球への純粋な憧れをいま思い出している。 |